私好みの新刊 2022年10月
『となりのホンドギツネ』 渡邉智之/写真・文 文一総合出版
ホンドギツネは山奥に棲む動物かと思われるが、あんがい都会の公園
や川の堤防などに棲んでいる。ホンドギツネは尾が太くて長いのとぴん
と立った耳、長い顔、白い胸毛などで犬とは区別がつく。
この本は、そのように身近に棲んでいるホンドギツネの生活ぶりを写
真で紹介している。見開きページでまず出てくるのは、ガードレールの
ある道路沿いの崖の下でホンドギツネが歩いている姿。次は広い河川敷。
満開の菜の花畑の間に注目すると・・キツネの子どもが遊んでいる。花
畑のすぐ横に巣穴が見える。その前に親ギツネに群がる子ギツネの写真
も出る。巣穴があるということは、そこでキツネが生活している証拠で
たまたま流れ着いたのではない。土手があれば巣穴を作る。ちょっと大
きめのキツネの親子がじゃれつく写真が出る。もう近くに棲み着いてい
る証拠である。
次々と身近な場所に棲んでいるキツネの写真が紹介される。ブランコの
横を餌を求めて歩いているキツネ、車の行きかう道路下の崖でじっと座っ
ているキツネなどが出る。ここで「ホンドギツネは人前に姿を見せること
はめったにありません。おくびょうな動物だからです。」とある。なのに、
なぜ、キツネは人間の近くで暮らしているのだろうか。
次に、キツネが近所の畑に出かけている写真が出る。畑にはキツネのエ
サとなる小動物も多い。人間の住むそばには食べ物が多い。さらに河川敷
には、キツネの子どもが遊ぶのに都合の良いペットボトルや新聞紙、ボー
ルなどが転がっている。河川敷はキツネには格好の遊び場でもある。ある日、
キツネの棲み家である雑草が刈り取られていく。夜中に道路に飛び出して
車の波にすくむこともある。それでもキツネは「人間の近くをはなれよう
とはしません。」とある。街近くでしたたかに生きるキツネ親子の写真が続く。
最後に少しばかりホンドキツネの解説がある。 2022年6月
1,800円
『生物がすむ果てはどこだ? −海底よりさらに下の地底世界を探る』
(くもんジュニアサイエンス) 諸野祐樹/著 くもん出版
生物は地下どのあたりまで生きていられるのだろうか。数メートル、数十
メートル、いや数百メートル、もっと下まで? 著者はこんなことに興味を持
ち調べてきた人である。結論から言うと、海底からさらに2500m下の地層の
中にも生物は生きているという。もちろん生物と言っても微生物であるが。
海底の地下地層の生き物に興味を持った著者の、生育記録を交えた研究記録
である。最初、海底に棲む生き物に興味を持った著者は、やがて海底の地層
に目を向ける。海底は生き物にとって厳しい環境だ。光が届かない真っ暗の
世界。そんなところに生物なんか生きているのだろうか。ところが、実際に
はチムニーがあったりして、たくさんの生き物が棲んでいる。さらに、海底
の泥の中では…著者の研究は進む。海底の地層を採取できるのは日本の科学
掘削船「ちきゅう」だ。「ちきゅう」は、大きなやぐらを持ち、次々とパイプ
を繋いで海底の泥を採取する。「ちきゅう」で採取された資料(コア)は、高知
県にある高知コアセンターに運ばれる。その後の研究はこのコアセンターに
ある地層(コア)を使ってする。著者は、海底下の泥の中にいる微生物を数え
だす。最初はなかなか見つからない。著者は、海底下の微生物を浮かび上が
らせ、数を数える方法も見つけ出す。海底下には、1億年もの昔に積もった
地層がある。そんな中にも微生物が棲んでいるのだろうか。著者は、海底下
2.5kmの地層からも微生物を見つけ出した。こんな海底下の地層にどうやっ
て微生物は生きているのだろうか。微生物が生きているという事はどうやっ
て証明すればいいのだろうか。海底下の微生物は地層に閉じ込められ、酸素
も少なく分裂もままならない。海底下は高温の世界でもある。
海底下、どこまで深く微生物はいるのだろうか。著者の研究は続く。
2022年1月 1,400円
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