私好みの新刊 202210

『となりのホンドギツネ』 渡邉智之/写真・文  文一総合出版

ホンドギツネは山奥に棲む動物かと思われるが、あんがい都会の公園

や川の堤防などに棲んでいる。ホンドギツネは尾が太くて長いのとぴん

と立った耳、長い顔、白い胸毛などで犬とは区別がつく。 

この本は、そのように身近に棲んでいるホンドギツネの生活ぶりを写

真で紹介している。見開きページでまず出てくるのは、ガードレールの

ある道路沿いの崖の下でホンドギツネが歩いている姿。次は広い河川敷。

満開の菜の花畑の間に注目すると・・キツネの子どもが遊んでいる。花

畑のすぐ横に巣穴が見える。その前に親ギツネに群がる子ギツネの写真

も出る。巣穴があるということは、そこでキツネが生活している証拠で

たまたま流れ着いたのではない。土手があれば巣穴を作る。ちょっと大

きめのキツネの親子がじゃれつく写真が出る。もう近くに棲み着いてい

る証拠である。

次々と身近な場所に棲んでいるキツネの写真が紹介される。ブランコの

横を餌を求めて歩いているキツネ、車の行きかう道路下の崖でじっと座っ

ているキツネなどが出る。ここで「ホンドギツネは人前に姿を見せること

はめったにありません。おくびょうな動物だからです。」とある。なのに、

なぜ、キツネは人間の近くで暮らしているのだろうか。 

次に、キツネが近所の畑に出かけている写真が出る。畑にはキツネのエ

サとなる小動物も多い。人間の住むそばには食べ物が多い。さらに河川敷

には、キツネの子どもが遊ぶのに都合の良いペットボトルや新聞紙、ボー

ルなどが転がっている。河川敷はキツネには格好の遊び場でもある。ある日、

キツネの棲み家である雑草が刈り取られていく。夜中に道路に飛び出して

車の波にすくむこともある。それでもキツネは「人間の近くをはなれよう

とはしません。」とある。街近くでしたたかに生きるキツネ親子の写真が続く。

最後に少しばかりホンドキツネの解説がある。 202261,800 

 

『生物がすむ果てはどこだ? 海底よりさらに下の地底世界を探る

 (くもんジュニアサイエンス)  諸野祐樹/著 くもん出版

生物は地下どのあたりまで生きていられるのだろうか。数メートル、数十

メートル、いや数百メートル、もっと下まで? 著者はこんなことに興味を持

ち調べてきた人である。結論から言うと、海底からさらに2500m下の地層の

中にも生物は生きているという。もちろん生物と言っても微生物であるが。 

海底の地下地層の生き物に興味を持った著者の、生育記録を交えた研究記録

である。最初、海底に棲む生き物に興味を持った著者は、やがて海底の地層

に目を向ける。海底は生き物にとって厳しい環境だ。光が届かない真っ暗の

世界。そんなところに生物なんか生きているのだろうか。ところが、実際に

はチムニーがあったりして、たくさんの生き物が棲んでいる。さらに、海底

の泥の中では…著者の研究は進む。海底の地層を採取できるのは日本の科学

掘削船「ちきゅう」だ。「ちきゅう」は、大きなやぐらを持ち、次々とパイプ

を繋いで海底の泥を採取する。「ちきゅう」で採取された資料(コア)は、高知

県にある高知コアセンターに運ばれる。その後の研究はこのコアセンターに

ある地層(コア)を使ってする。著者は、海底下の泥の中にいる微生物を数え

だす。最初はなかなか見つからない。著者は、海底下の微生物を浮かび上が

らせ、数を数える方法も見つけ出す。海底下には、1億年もの昔に積もった

地層がある。そんな中にも微生物が棲んでいるのだろうか。著者は、海底下

2.5kmの地層からも微生物を見つけ出した。こんな海底下の地層にどうやっ

て微生物は生きているのだろうか。微生物が生きているという事はどうやっ

て証明すればいいのだろうか。海底下の微生物は地層に閉じ込められ、酸素

も少なく分裂もままならない。海底下は高温の世界でもある。

海底下、どこまで深く微生物はいるのだろうか。著者の研究は続く。 

20221月  1,400
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